横須賀簡易裁判所 昭和38年(ろ)108号 判決 1963年11月14日
被告人 平山栄一
昭七・九・五生 大工
平山勝弘
昭一八・一・二五生 無職
主文
被告人平山栄一を懲役壱年四月に、同平山勝弘を判示(二)の事実につき懲役壱年に処する。
被告人両名に対し未決勾留日数中各百弐拾日を右各本刑に算入する。
被告人平山勝弘に対しこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
被告人平山勝弘を右猶予の期間中保護観察に付する。
被告人平山勝弘に対し判示(三)ないし(八)の事実につきその刑を免除する。
理由
(罪となるべき事実)
「被告人平山栄一は
(一) (イ) 金品窃取の目的で、昭和三八年四月六日午後九時ころ、神奈川県横浜市保土ヶ谷区南希望ヶ丘九〇番地並木勇方居宅に裏側六畳の間の雨戸をはずして同所から同屋内に侵入し、
(ロ) 同屋内において、同人所有の背広洋服上下二着、背広洋服上衣一枚、「ズボン」一本、「スプリングコート」一着、「レインコート」一着、「カーデガン」一枚、電機毛布一枚、「トランジスターラジオ」一台、金歯二箇および並木淳子所有の「スーツ」一着、指輪二箇、「トツパーコート」一着、「女物オーバー」一枚、セパレーツ一枚(時価合計一三五、五〇〇円ぐらい相当)を窃取し、」
「被告人平山栄一、同平山勝弘は
(二) (イ) 両名共謀のうえ、金品窃取の目的で連れ立ち、前同日午後一一時ころ、前記並木勇方居宅に裏側六畳の間の雨戸をはずして同所から同屋内に侵入し、(ロ) 同屋内において、右並木勇所有の「カフスボタン三組」、「ネクタイピン」二箇、「ダイヤ指輪」一箇、「オメガ腕時計」一箇、「テープレコーダー」一台、「カーデガン」一枚、並木淳子所有の首飾一箇(時価計三九四、五〇〇円ぐらい相当)を窃取し、
「被告人平山勝弘は
(三) 昭和三八年四月六日午後九時三〇分ころ、神奈川県横浜市南区大久保一六五番地第一栄荘第一号室において、平山栄一が他から窃取して来た「ブローチ」一箇、「カーデガン」一枚(時価合計三、〇〇〇円ぐらい相当)を、盗品であることの情を知りながらこれを同人から貰い受け、もつて賍物の収受をし、
(四) 右同年四月九日午後八時ころ、右同室において、右平山栄一が他から窃取して来た背広洋服一着(時価二〇、〇〇〇円ぐらい相当)を、盗品であることの情を知りながらこれを同人から貰い受け、もつて賍物の収受をし、
(五) 右同年四月二五日午前七時ころ、右同室において、右平山栄一が他から窃取して来た電気毛布一枚(時価八、〇〇〇円ぐらい相当)を盗品であることの情を知りながらこれを同人から貰い受け、もつて賍物の収受をし、
(六) 右同年四月六日午後九時四〇分ころ、右同室において、右平山栄一から同人が他から窃取して来た女物指輪一箇(赤石のついたもの)の入質方依頼を受け、同品が盗品であることの情を知りながらこれを同日午後九時五〇分ころ、前同市南区大久保町二番地南部屋質店に金一、三〇〇円で入質してやり、もつて賍物の牙保をし
(七) 右同年四月一九日午前九時ころ、右同室において、右平山栄一から同人が他から窃取して来た背広洋服上衣一枚、「スプリングコート」一着の入質方依頼を受け、同品がいずれも盗品であることの情を知りながらこれを同日午後零時ころ、右南部屋質店に金二、五〇〇円で入質してやり、もつて物賍の牙保をし、
(八) 右同年四月二一日午後一時ころ、右同室において、右平山栄一から同人が他から窃取して来た背広洋服一着の入質方依頼を受け、同品が盗品であることの情を知りながら、これを同日午後一時三〇分ころ、右南部屋質店に金二、〇〇〇円で入質してやり、もつて賍物の牙保をし」
たものである。
(以上のうち(一)および(二)は昭和三八年(ろ)第九六号、昭和三八年七月一三日起訴分。その余は同(ろ)第一〇八号、同年八月一〇日追起訴分。)
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人平山栄一の判示(一)の(イ)の所為は刑法一三〇条、罰金等臨時措置法三条一項二条一項に、同(ロ)の所為は刑法二三五条の包括一罪に、被告人平山栄一同平山勝弘の判示(二)の(イ)の所為はおのおの刑法一三〇条罰金等臨時措置法三条一項二条一項刑法六〇条に、同(ロ)の所為はおのおの刑法二三五条六〇条の包括一罪にあたるところ、右各、住居侵入と窃盗とは(すなわち「判示(一)の(イ)と同(ロ)、」判示二の(イ)と同(ロ)『被告人両名とも』、)牽連犯であるから、同法五四条一項後段一〇条によりいずれも一罪として重い窃盗罪の刑に従い処断することとし、被告人平山栄一の以上各罪は同法四五条前段の併合罪の関係にあるから同法四七条一〇条により犯情の重い判示(二)の(ロ)の窃盗罪の刑に法定の加重をし、その刑期範囲内で同被告人を懲役一年四月に処し、同法二一条により未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入することとし、右判示(二)の(ロ)の窃盗罪の所定刑期範囲内で被告人平山勝弘を懲役一年に処し、同法二一条により未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入することとするが、前科調書、被告人平山栄一の当公判廷における供述によれば同被告人は(1)昭和二八年八月二九日徳山簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年(三年間刑執行猶予)に処せられてその裁判は同年九月一三日確定し(2)同三〇年七月二八日呉簡易裁判所で同罪により懲役六月に処せられて、その裁判は同年同月三〇日確定し、同三〇年九月六日右(1)の執行猶予の言渡を取消され、当時右両刑の執行を受け終つた事実が認められ、その後すでに五年を経過してはいるが、たとえ不健康が原因で生活に窮するものがあつたとはいえ本件判示各所為にいでたことは、犯情芳ばしからず、にわかに同情を寄せ難いところであり、あまつさえ同居の弟相被告人平山勝弘の判示(二)の犯行を誘発し、年歯も行かぬ同人を巻きぞえの結果に陥らしめたことは分別あるべき兄として強い非難に価いするものがあり、本件検挙にあい前非を悔いてはいるが被害者の感情は緩和されていず、その姉佐藤恵美子の証人としての当公判廷における供述によれば同じ弟でも被告人勝弘に対しては擁護をおしまぬも、右被告人に対しては批判的の態度を持し、なかば遠ざかろうとしている情景すら窺われ、彼れ此れ事情勘案するに被告人平山栄一については、未だもつて右刑の執行を猶予するにたりる情状ありとは云い難いが、被告人平山勝弘については、たとえ兄相被告人栄一の誘発を受けたとは云え、親身のことなれば貧窮にある同兄を極力助け、かかる犯行のよからぬことを諫めてこれを制止すべきが情義なるに、かえつて共謀し犯行の拡大に拍車をかけた犯情よろしからず厳重に戒しむべきではあるが、齢い漸く二〇才に達した春秋に富む身であり、刑事処分として初犯でもあり、最近本籍地の実家に戻り両親の身近かで稼働すべく実父が連れ戻しに来ていた矢先であつたような状況にもあるし、若年者こそ暫く両親の身近かにおいて、よく指導監督し、再びかかる失態なきを期せしめることが肝要と思われるし、右証人の証言と南部屋質店発行の佐野の認印ある預り証によれば同被告人の要請で、前記実姉が同質店に質受金の一部(金利)を支払い、全被害の弁償にはまことに程遠い措置ではあが、誠意の一端を示している様子を窺いうるし、同被告人には改悟の情が認められるのでここでこの被告人両名を実刑に処し兄弟揃つて獄舎に日を送ることとなつた場合世間を憚るのあまりその一族に与える暗い影響の面など考えたなら、この際能うことなら弟の被告人勝弘だけでも相当期間その執行を猶予し、更に深い自覚と反省の機会を与え、一面その感銘によつて人生に希望と光明を抱かせ、その速かなる更生を促がし、自身はもちろん親兄弟の繁栄に寄与し相被告人兄栄一の受刑中の後顧の憂いを幾分でもも少くさせることは、刑政の道にも合致するものと思料されるので、以上その他諸般の情状考量のうえ同法二五条一項により被告人平山勝弘に対しこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、かつ環境を調整し更生を補導援護のため同法二五条の二、一項前段により同被告人を右猶予の期間中保護観察に付することとし、被告人平山勝弘の判示(三)ないし(五)の所為はいずれも同法二五六条一項に同(六)ないし(八)の所為はいずれも同法二五六条二項、罰金等臨時措置法三条一項二条一項にあたるところ、以上の各罪は判示同被告人の(二)の所為とともに刑法四五条前段の併合罪の関係にあるが、前記のとおり右各賍物罪の本犯たる本件相被告人平山栄一と同賍物犯たる被告人平山勝弘とは犯時同居の親族であつた関係があり、右は刑法二五七条一項列挙中の「同居ノ親族ノ間ニ於テ前条ノ罪ヲ犯シタル者」の場合にあたることが認められるので右法条により、被告人平山勝弘に対し判示(三)ないし(八)の事実につきその刑を免除する言渡をすることとし、被告人平山栄一に対する訴訟関係で生じた訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により同被告人にこれを負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 亀田松太郎)